ボストン交響楽団オーボエ奏者 若尾圭介の

ボストン交響楽団オーボエ奏者 若尾圭介の クラシックな日々 in ボストン

【第22回】
 タングルウッドで英気を養う―夏限定のアウトドア生活

 今回も前回に引き続きボストン響、夏の本拠地《タングルウッド音楽祭》開催中のタングルウッドからのコラムです。


家族でツーリング・・してみたかったんです

 ニューヨークやボストンなどアメリカ東海岸にある大都市の夏は、照りつける日差しも強く、空気も重くて結構過ごしにくい。そこで、タングルウッドのあるマサチューセッツ州西方、バークシャー地方には、自然のもたらす涼気を求めて多くの人が避暑に訪れます。ここは夏の別荘地としても知られており、日本で言うと軽井沢などのイメージでしょうか。
 鬱蒼と繁る森の木陰で癒され、木々の葉の勢いある緑色に元気付けられる。吸い込む空気も清々しく、涼やかな風に吹かれると「真夏なのに・・・・・・」と、有難いような気分になります。こんな環境の中で暮らしていると無意識のうちにオーボエをさらう手を止め、戸外に飛び出したくなることもしばしば。
 そう、タングルウッドで過ごす夏は、豊かな自然に後押しされるように、アウトドアの楽しみを満喫する毎日なのです。

《アウトドアは安全に、エコ的に、かつクールに》


娘を乗せてタングルウッド敷地内を自転車で

 この夏、私が新たに夢中になっているのは自転車。バークシャーでは、森の中を疾走する快感に魅せられた自転車乗りをたくさん見かけます。隣に住んでいるボストン響ファゴット奏者、リックは何年も前から筋金入りの自転車乗り。当然、タングルウッドでのリハーサルにも自転車で通っています。
 「自転車なら通勤とエクササイズが同時に出来るし、排気ガスを出したくないから自転車で行ける所はなるべく車の代わりに自転車を使う」のがリックの主義。家の窓から、或いはシェッド(コンサートホール)の駐車場で、同僚とタムロしている傍らを彼が自転車でシャーッと走り抜けていく姿を目にする度、「ウーン、カッコいいかも」との思いが心に溜まっていたのかな。夏の始めに思い立ち、自転車専門店へ。どうせなら家族でツーリングを楽しみたいと、妻の自転車も購入。その他、2歳半の娘は私の後ろに乗せる為にチャイルドシート、3人分のヘルメット、手袋、ベル、ミラー、盗難防止の為の頑丈なロック、自転車を車に積む為のラック・・・・・・とかなりの手痛い出費をし、やっと準備完了。
 がっちりと安全に整備された新しい自転車を携え、すぐさまサイクリングロードに行き、家族でツーリング。その気持ちよさが病みつきになり、以来時間があるとツーリングヘ出かける我々家族なのです。また、私はタングルウッドまでの自転車通勤(約20分)も始め、走行距離もスピードも高まってきて益々自転車の虜になっています。
 思えば、量販店にある安価な自転車にも心が動きましたが(最安値の自転車59ドル也)倹約家のアメリカ人でも、ちょっとスマートなら手を出さない、価格も品質もチープな自転車はセイフティ的にもエコロジー的にも却って良くないと今なら深く納得できます。大自然を相手にするには相応の下準備が必須なのだ。そんな実感も、通常とは別の感性が刺激されるようで心地よいものです。

《豊かな自然から受けるエネルギーを溜め込んで》


初めてボートに乗り、はしゃぐ娘

 クラシックの音楽家というと神経質で暗く、インドア系というイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。勿論、個人のキャラクターにも依りますがボストン響の同僚たちは、タングルウッドにやって来ると、着る服もカジュアルになり、アウトドア生活を上手に取り入れるアクティブな仲間が多いのです。
 自転車の他にもバークシャーの至る所にある湖で泳いだり、夜、ボートに乗って漏れ聞こえるタングルウッド音楽祭のコンサートを聴いたりするのは最高の気分。テニスやジョギング、気軽な散歩から様々なコースでのトレッキングやハイキングも盛んだし、野外で親しい友人が集まってのバーベキューパーティもしょっちゅう・・・・・・と楽しみは尽きません。
 このところ、朝のリハーサルが終わると一目散に外に出て、自然の中で身体を動かし、夜になるとコンサート、なんて日もあり帰宅後は疲れてバタンキューです。盛り沢山の夏が過ぎていきますが、何故か心身のエネルギーはもりもりと蓄積されていくのを感じます。これこそがアウトドア生活の醍醐味、大自然の恩恵なんだろうな、と秋からの我が人生展開(!)が楽しみな今日この頃なのです。

 
若尾
マンハッタン音楽院ジョセフ・ロビンソン氏に師事、卒業後同学院で教鞭をとる。マイケル・ティルソン・トーマス率いるニューワールド交響楽団創立の1987年、初代オーボエ奏者として同楽団入団。1990年よりボストン交響楽団準首席奏者及びボストンポップスオーケストラ首席オーボエ奏者を兼任。更にニューイングランド音楽院で教鞭をとる。日本での活動としては88年より“若尾オーボエキャンプ”を毎年行っている。98年クリストフ・エッシェンバッハ氏と共演のデビューCD「カンツォネッタ」をはじめとし、ジョン・ウィリアムス氏等の著名な音楽家とのCDも多数リリースしている。近年では代官山ヒルサイドテラス音楽祭音楽監督、スーパーワールドオーケストラ首席オーボエ奏者など、ソリスト以外にも様々な活動を展開している。
http://wkboston.exblog.jp/
1 2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23 24
25 26