ボストン交響楽団オーボエ奏者 若尾圭介の

ボストン交響楽団オーボエ奏者 若尾圭介の クラシックな日々 in ボストン

【第21回】
 タングルウッドから、音楽夏便り


自然の中で奏でるオーボエ
野外テントでレクチャーコンサート

 毎年7月と8月の2ヶ月間、ボストン交響楽団は、《タングルウッド音楽祭》専用のレジデンス・オーケストラとして、本拠地をボストン・シンフォニーホールからマサチューセッツ州西端にあるバークシャー地方レノックスの「タングルウッド」に移します。
 音楽の祭典として名高い《タングルウッド音楽祭》。各地から集まる聴衆の皆さんのために、超一流の指揮者やソリストを迎え、多種多様なプログラムが日替わりで組まれ、それに伴うリハーサルやコンサートのスケジュールも通常シーズンより盛り沢山で、熱気あふれる公演が連日繰り広げられています。
 ボストンからは車で飛ばしても2時間以上かかりますから、ボストン響の楽団員は皆、家族を伴い、バークシャーで夏の2ヶ月を過ごします。
 というわけで、私も今、タングルウッドの森の中でこの連載を執筆中。これから数回はここから音楽祭や夏の様子をお届けします。

《タングルウッド音楽祭》


タングルウッドのメインゲート

 春は新緑、夏は避暑、秋は見事な紅葉、冬はスキー・・・・・・と、自然がもたらすバークシャー地方の見どころは、1年を通して人々を惹きつけてやみません。そんな素晴らしい環境の広大な土地を、1934年とある富豪がボストン響に寄付し、その2年後の1936年、当時の音楽監督クーセヴィツキーがその土地でボストン響のコンサートを試みたことが、タングルウッド音楽祭のはじまりだと言われています。
 それからおよそ70年、210エイカー(85万平方メートル)に及ぶタングルウッドの森の中で、夏のひととき音楽を奏でたり、楽しんだりすることを大切に思う人々の想いが、この音楽祭を大きく育んできました。実際、メインホールであるクーセヴィツキー・ミュージック・シェッドも、完成時の1938年には、多くの募金が集まりましたし現在も個人、企業から多くの寄付が寄せられています。また、毎年1000人を超すボランティアの方々がプログラム配りから会場整理、売店の店員などで音楽祭を支え続けています。


ワイン片手に外で音楽を楽しむのはタングルウッドならでは

 コンサートは、シェッド内でじっくり聴くも良し、芝生でワインやチーズを楽しみながらピクニック気分で聴くも良し。シェッドでのオーケストラのコンサートだけでなく、ボストン響前音楽監督、小澤征爾氏の功績を讃えて名付けられたオザワホールでの室内楽や、ソロリサイタルなども様々なものがあります。出演するのは、世界の一流奏者たち、例えばヨーヨー・マやジョン・ウィリアムズは毎年の常連。今週末はレナード・スラトキン指揮、ヴァイオリンの五嶋みどりがチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を弾くというので、ボストンやニューヨークの近場からだけでなく、日本からの団体旅行も組まれて、はるばる聴きに来てくださるとか。今年はガゾリン代が高騰しているので観客が減るんじゃないかと内心予測していたのだけれど、今のところざっと見る限り毎コンサートは大入り満員。今年も毎年と変わらず、ワンシーズンに30万人もの人々がタングルウッド音楽祭を訪れるのでしょう。
 また、タングルウッド音楽祭は音楽を学ぶ若い学生たちに向けたサマースクール(タングルウッド・ミュージック・センター・TMC)を設けていて、全米・海外からオーディションで選ばれた優秀な学生たちが集い、ボストン響音楽監督を始め、一流奏者たちの指導の下、学んでいます。最高の環境にあるTMCの卒業生から多くの世界的な指揮者、音楽家が誕生していることはつとに有名で、そんな意味からもタングルウッドは現在活躍中の多くの音楽家たちの若き日の想い出溢れる場所でもあります。
 長年、ボストン響音楽監督だった小澤征爾氏も未だタングルウッドの家を手放していないようですし、ボストン響の元楽団員が、この地でリタイア後の生活を始めることもよくあります。
 そんな多くの人々の心を静かにしっかりと捉えてしまうタングルウッドの魅力。次回はここでの夏の毎日の様子をお届けします。

 
若尾
マンハッタン音楽院ジョセフ・ロビンソン氏に師事、卒業後同学院で教鞭をとる。マイケル・ティルソン・トーマス率いるニューワールド交響楽団創立の1987年、初代オーボエ奏者として同楽団入団。1990年よりボストン交響楽団準首席奏者及びボストンポップスオーケストラ首席オーボエ奏者を兼任。更にニューイングランド音楽院で教鞭をとる。日本での活動としては88年より“若尾オーボエキャンプ”を毎年行っている。98年クリストフ・エッシェンバッハ氏と共演のデビューCD「カンツォネッタ」をはじめとし、ジョン・ウィリアムス氏等の著名な音楽家とのCDも多数リリースしている。近年では代官山ヒルサイドテラス音楽祭音楽監督、スーパーワールドオーケストラ首席オーボエ奏者など、ソリスト以外にも様々な活動を展開している。
http://wkboston.exblog.jp/
1 2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23 24
25 26