ボストン交響楽団オーボエ奏者 若尾圭介の

ボストン交響楽団オーボエ奏者 若尾圭介の クラシックな日々 in ボストン

【第15回】
 ボストンで学ぶ〜未来は自ら掴み取ろう

01
音楽家の卵達とともに

 現在、ボストンにある三つの音楽大学で教鞭をとっています。我がステューディオには日本からの留学生も多くいます。彼らのオーボエに対する一途さ、真面目さには目を見張るものがあり、昨今の若者も捨てたものじゃあないなと、密かに感心しています。ま、私が学生たるものこうあるべきであると生徒に方針をはっきり示しているため、ほとんどの学生はボストンへ来ると早々に目の色が変わり、オーボエ一筋となるのですが。無論、真面目な努力が必ずしもプロの音楽家の道へと結びつくわけではなく、その点において、人生はなんともアンフェアです。でも若い時に一つのことに集中して打込み、そのことについて寝ても覚めても夢に出てくるまでに深く、深く考える(ここが重要)経験は、その学生にとって将来かけがえのないものになると信じています。

 とはいえ、中には根本から考え違いをしているような腑抜けた学生もいて、手を焼きます。なぜもっと真剣に練習しないのかと問うと、悪びれもせず「人生は一度きり。オーボエばかりでなく、いろいろなことを経験したい」というようなことを主張します。「なぁんだ、お遊びですか」と毒付きたいのをぐっとこらえ、あれこれ説得しても一向に態度が改まらず、オーボエの実力も伴わない場合《その学生の未来の為に》音楽の道を諦めてもらわざるを得ません。でも、いわずもがなアメリカは裁判国家。正当な手段を踏まずに思い切った行動を取ると、先生といえども学生や親は容赦なく対立してきますから、どんなに腹が立っても冷静に行動することが肝心なのですが・・・・・・。いやはや、先生稼業も楽ではありません。

《先を行く者として》

01
次世代の若者へ叱咤激励

 プロを目指す学生を前にして、教師としてできることは何だろうと時折自問します。20歳の頃の自らを省みると、「先生から教えてもらう」という受身な考え方はなく、先生からもっと大きな、何か大切なことを得たい、盗みたいという攻撃的な考えでレッスンに通っていました。そこから考えるに、私が教師としてできることは、学生の情熱的なアタックに耐え得る力を持ち続けることと、その学生が一瞬でも良い音、音楽を奏でたときに「That’s it! Great! (そうそう、それだよ! 素晴らしい!)」 と目指すものを具体的に気付かせてあげること、その二つしかないような気がします。
 そこから先は学生が自ら獲得し、盗み取っていくのを期待して見守るだけ。そして真の実力を蓄えた次世代の若者へバトンを渡す時期も間も無く訪れるのでは・・・・・・とも思っています。ま、実際は世代交代の実感など全くないのだけれども、若者には我々世代を抜いていくぞという気概があるべきだし、先を行く我々もそれを堂々と受けて立つべきでしょう。それが実力世界に生きる音楽家の宿命ですから。
 譲るべき座にいつまでも居座る、害のある年寄りには絶対になるまいと心に誓いつつ、たとえ脅威を感じるほどの次世代の実力者が現れようとも負けないぞと、兜の緒を締める思い。いつか自らの席を譲る日がやって来たら、その時は爽やかに思い残すことなく去ることができるように、日々のコンサートを大切にしていこうと思います。

 
若尾
マンハッタン音楽院ジョセフ・ロビンソン氏に師事、卒業後同学院で教鞭をとる。マイケル・ティルソン・トーマス率いるニューワールド交響楽団創立の1987年、初代オーボエ奏者として同楽団入団。1990年よりボストン交響楽団準首席奏者及びボストンポップスオーケストラ首席オーボエ奏者を兼任。更にニューイングランド音楽院で教鞭をとる。日本での活動としては88年より“若尾オーボエキャンプ”を毎年行っている。98年クリストフ・エッシェンバッハ氏と共演のデビューCD「カンツォネッタ」をはじめとし、ジョン・ウィリアムス氏等の著名な音楽家とのCDも多数リリースしている。近年では代官山ヒルサイドテラス音楽祭音楽監督、スーパーワールドオーケストラ首席オーボエ奏者など、ソリスト以外にも様々な活動を展開している。
http://wkboston.exblog.jp/
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