
ボストン交響楽団オーボエ奏者 若尾圭介の クラシックな日々 in ボストン
【第12回】
ボストンで保育園探し
子どもを育てるということは、否応なしに新しい経験を積んでいくことであるし、ふと気が付くと、子どもを通して自らの子ども時代を追体験していることもあり・・・・・・。その奥深さをしみじみ思う今日この頃であります。子育てエッセイのような様相を呈してきたこの連載ですが(笑)、今回も懲りずに子ども・子育てをテーマにお送りします。
《ボストンの保育園って》

田舎の農場?いえいえ、保育園です
マサチューセッツ州の法律では、2歳9ヶ月になった子どもは保育園への入園が許可されており、我が家の一人娘もこの秋からの通園を考えています。これ、と決めたら人一倍の凝り性の私。たかが保育園と侮るなかれ、三ツ子の魂百まで、これは娘の社会デビューであるぞ! とばかりに、娘の保育園探しにここ数ヶ月間飛び回っておりました。その体験をご紹介しましょう。
まず、目を付けたのは近所でも一目置かれているA保育園。ここでは、アメリカならではの広大な土地を活かして敷地内に農園を作り、ポニーや様々な小動物が飼われている。大自然と触れ合いながらの保育園生活――をたやすく想像できる素晴らしい環境。建物もこぢんまりとはしていますが、整理整頓されており申し分ない。しかしながらこの園の費用は(保育園の場合、学費というべきなのか?)年間200万円を超し、しかもごく少人数しか採らないので入園するのは至難の業とか。何度か見学に行き、良いなぁとは思ったけれど、現実問題いかんせん費用が高すぎる。リッチでなければダメという排他的な雰囲気もなくはない。何とか入園できたところで、ここから後に引けず、蝶よ花よの人生を送らせるつもりなどサラサラない・・・・・・、と、結局A保育園は選択外へ。
我が家近辺にある幾つかの保育園に当っていくうち、次に候補に上がったのは、スタッフが全員フランス語を話し、フランス語と英語のバイリンガル教育に重点を置いているというT保育園。ドアを入った途端に「ボンジュール!」と挨拶される。園内は美しく、白で統一した部屋にヨーロッパ製と思われるお洒落なおもちゃや、絵本が美しく並び、チリひとつ落ちていない。生粋のフランス人の園長先生以下、先生が皆綺麗で優しい女性のみ、危険な事などさせませんと言わんばかりの和やかな雰囲気。妻はこのT保育園をいたく気に入り、「初めて通うところはこのような守られた雰囲気のところが良い。だいたい、アメリカの保育園は汚いところが多すぎる! 子どもが遊び回るのだから大変なのはわかるが、掃除はいつやったのかと聞きたくなるところがほとんど。ここは清潔だし安心」と言う。そう言われるともっともな気がして、ここに決めるかというところまでいったところで再度「現実問題」にぶつかりました。費用は、年間約170万円、他にフランス語の教材その他もろもろ、迎えに来る親達を見ると親同士の付合いも出費の連続になる事は一目瞭然。
我が家周辺の平均的な保育園の年間費用は40万円前後のところがほとんど。よくよく考えると3歳にも満たない子どもに大枚をはたくのも馬鹿馬鹿しくなり、おまけに「日本語と英語のおしゃべりもままならないところへ、なぜにフランス語か」という気もしてきて、結局このT保育園も却下・・・・・・、と相成りました。
《定めるべきスタンダードとは》

保育園で遊ぶ子供たち
妻はいみじくも「アメリカの保育園は汚い」と宣いましたが、わたしの持論として「少々の不潔さには平然としていること」は世界を股にかけて歩む人間には必須です。どこへ行っても掃除が行き届き、清潔なのが当然という所は日本以外、世界の何処に行っても見当たりません。ボストンに暮らしているのだし、娘に大きく羽ばたいて欲しいと願うのならば、どんなことであっても日本の限定的なスタンダードなど基準にしてはならない。そんなこともこの保育園巡りで改めて思ったことです。
(第13回ヘ続く)
マンハッタン音楽院ジョセフ・ロビンソン氏に師事、卒業後同学院で教鞭をとる。マイケル・ティルソン・トーマス率いるニューワールド交響楽団創立の1987年、初代オーボエ奏者として同楽団入団。1990年よりボストン交響楽団準首席奏者及びボストンポップスオーケストラ首席オーボエ奏者を兼任。更にニューイングランド音楽院で教鞭をとる。日本での活動としては88年より“若尾オーボエキャンプ”を毎年行っている。98年クリストフ・エッシェンバッハ氏と共演のデビューCD「カンツォネッタ」をはじめとし、ジョン・ウィリアムス氏等の著名な音楽家とのCDも多数リリースしている。近年では代官山ヒルサイドテラス音楽祭音楽監督、スーパーワールドオーケストラ首席オーボエ奏者など、ソリスト以外にも様々な活動を展開している。
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