ボストン交響楽団オーボエ奏者 若尾圭介の

ボストン交響楽団オーボエ奏者 若尾圭介の クラシックな日々 in ボストン

【第10回】
 悲しきアメリカ医療事情・1

01
ボストンの大雪

 生まれも育ちも東京の私にとって、何年住んでもボストンの冬は過酷。特にこの冬は数日ごとに雪が舞い、雪が止むと痛いくらいの寒さが街を覆う。屋内まで風がビュウビュウとこだまするのが聞こえるほどの勢いかと思うと、ざぁっと冷たい雨が降り・・・・・・ころころと様相を変化させつつ、厳しい寒さが4月くらいまで続きます。
 そんな気候の下に暮らしていると、元来丈夫で日々のコンサートのため元気に走り回る私にとっても、まだボストンに住んで数年の妻と2歳の娘にとっても、風邪や流感などから身を守る体調管理は身近な、そして大きな関心事です。

 

《アメリカの医療保険》

02
雪の日も楽しく過ごしたいもの

 アメリカには日本のような国民皆保険制度はありません。しかも、医療費が非常に高い。従って、ほとんどのアメリカ住民は、民間の医療保険会社の提供する医療保険を利用しています。
 企業や団体に属している場合、その企業の提携する医療保険に入ることが多く、企業が保険料を負担してくれる等、個人で入るより相当のメリットがあります。その医療保険は、プランや払い込む保険料によって診療費の自己負担額に差があり、加えてその保険会社の契約している医療機関をインターネットで探し出して診察を受けなければならない。眼科や耳鼻科といった専門医に診てもらう場合も掛り付け医の紹介状が必要、歯科診療には別個の保険があったり・・・・・・と日本に比べて煩雑この上ない。そんなこともあり、たかだか風邪ごときで一々病院へ行くということが少なく、だからアメリカのドラッグストアはどこも、予防の為のビタミン剤や市販の風邪薬、ハーブ・・・・・・といったものが氾濫しているのでしょう。
 私の所属するボストン交響楽団が提携している医療保険は、ボストンに居る限り医療に関しての不安や不自由は全くないというほど充実したサービスを提供しています。片や、大手航空会社に勤める妻は、ボストン響と航空会社の医療保険プランを一瞥、『比べものにもならないワ』と、それまでの航空会社の医療保険を即日脱退、ボストン響の提携する医療保険に家族会員として入り直しました。
 このように、一口に民間の医療保険といっても、当然のごとく様々なレベルやプランがあるのです。アメリカにも低所得者及び高齢者用の公的医療保険はありますが、実際にこれらの保険だけを頼りに生活する人は、少なくとも私の周りには見当たらない。恐らく一般的な民間医療保険と比べると診察してくれる病院や診察そのものまで、かなりの制限があるのだろうと想像できます。また、低所得者ではないけれども、民間の医療保険の支払いをするほどの余裕はない非保険加入者はアメリカで3000万人もいるとか。
 大人の風邪ぐらいなら自前で何とかなる場合もあるでしょうが、例えば育ち盛りの子どもを抱える家庭にとって、医療保険を持たないということはどういうことか。実際、アメリカに暮らす子ども達が受けるべき予防接種は、日本のそれより多種多様、数ヶ月ごとの定期検診にも頻繁に出かけていかなければなりません。医療保険なしではとても賄い切れるものではないでしょう。そこには比較的恵まれた環境で暮らしている我々には想像も付かない、アメリカの大問題が見え隠れします。
 (第11回へ続く)

 
若尾
マンハッタン音楽院ジョセフ・ロビンソン氏に師事、卒業後同学院で教鞭をとる。マイケル・ティルソン・トーマス率いるニューワールド交響楽団創立の1987年、初代オーボエ奏者として同楽団入団。1990年よりボストン交響楽団準首席奏者及びボストンポップスオーケストラ首席オーボエ奏者を兼任。更にニューイングランド音楽院で教鞭をとる。日本での活動としては88年より“若尾オーボエキャンプ”を毎年行っている。98年クリストフ・エッシェンバッハ氏と共演のデビューCD「カンツォネッタ」をはじめとし、ジョン・ウィリアムス氏等の著名な音楽家とのCDも多数リリースしている。近年では代官山ヒルサイドテラス音楽祭音楽監督、スーパーワールドオーケストラ首席オーボエ奏者など、ソリスト以外にも様々な活動を展開している。
http://wkboston.exblog.jp/
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