ボストン交響楽団オーボエ奏者 若尾圭介の

ボストン交響楽団オーボエ奏者 若尾圭介の クラシックな日々 in ボストン

【第8回】
 クラシック音楽界の光〜ボストン響コンサートから

《ボストン市民に育まれているオーケストラ》

01
ピアニスト内田光子さんと

 日本のある指揮者のことばです。
『ボストン交響楽団は、毎回のコンサートに超一流の指揮者とソリストを迎えるから《ハズレ》のコンサートがない。経済的なことなど様々なしがらみに縛られている、多くのオーケストラにはなかなか真似のできないことなのです』。
 ボストン響と共演する常連の指揮者やソリストは、まず間違いなく世界の頂点を極めた音楽家と言えるでしょう。日本人で、馴染の深い音楽家といえば、前音楽監督の小澤征爾氏、ヴァイオリンの五嶋みどりさん、そしてピアノの内田光子さんでしょうか。
 広いアメリカ。オーケストラも星の数ほどあれど、その拠点となるコンサートホールを所有できるオーケストラは極く僅か。その中でボストン響は、世界でも有数の名ホールであるシンフォニーホールを所有するばかりでなく、ホール周辺の不動産を上手に動かし、大きな収入源としています。シンフォニー、ポップス共にシーズンを通して人気があり、『先日のコンサート聞きに行きましたよ。(オーボエを)吹いていらっしゃいましたね! 』と顔見知りではない人から声をかけられることもしばしば。
 オーケストラの創立者であるヘンリー・リー・ヒギンソン氏の名を冠した《ヒギンソン・ソサエティ》は2500USドル(※日本円で約27万円)以上の寄付をしたメンバーから成るボストン響のサポート団体ですが、この団体だけで昨年1年間に3.2ミリオンUSドル(※日本円で約3億4千万円)もの寄付金を集めたとか。他にも少額のサポーター制度や数社の企業サポートがあります。
 そのようなことを考え合わせると、まさにボストン市民に愛され、育まれているオーケストラなのだと実感し、感謝の思いが深まります。

《ボストン響コンサート〜内田光子さん》

02
シンフォニーホールの客席から

 低迷する一方と囁かれる西洋クラシック音楽界ですが、この恵まれた環境の下、先週から今週にかけてボストン響のコンサートは素晴らしい指揮者、ソリストを迎えて大いに盛り上がりました。2600席余りのボストン・シンフォニーホールが、連日大入り満員。
 指揮者はコリン・デイビス氏、ピアニストは内田光子さん。
 プログラムはモーツァルト交響曲第36番『リンツ』、同じくモーツァルトのピアノ協奏曲第23番、シューベルト交響曲第2番。
 内田光子さんは、日本人という枠をとうの昔に忘れてしまったかのように見えるほど、音楽家としての道を自由闊達に邁進されています。1年半ほど前、友人家族を訪ねてクリーヴランドに遊びに行った際、偶然クリーヴランド管の公演で内田光子さんのモーツァルトピアノ協奏曲の弾き振り(指揮とピアノ)を聴く機会がありました。お会いするのはあの時以来。本番の後、共演した感想を伺ってみました。
 『とおっても楽しかった! 指揮者のコリン・ディビスとボストン響は、香り立つような柔らかな音楽を奏でるという意味では、とても近い関係だと思う。日を追うごとに音楽が深まりを見せて、共演していて楽しくて仕方がなかったわ』。
 内田光子さんのモーツァルトは《この音楽の無限の美しさを共有しましょう》。そんなメッセージが聴こえてくるような演奏でした。コンチェルトを弾き終えたあと、衣装の上にさらりとジャケットを羽織り、シンフォニーホールの客席から次の曲目、シューベルトの交響曲を聴いていらっしゃるのがステージにいる私からも見えました。あれほどの熱演のあとに、他人の演奏を鑑賞するというソリストも私の知る限り珍しい。うっとりとシューベルトを聴く光子さんのお姿に心底音楽を愛する心、音楽一筋の生き方をみる思いがしました。次にお会いできるのは世界のどこででしょうか。今から楽しみです。

 
若尾
マンハッタン音楽院ジョセフ・ロビンソン氏に師事、卒業後同学院で教鞭をとる。マイケル・ティルソン・トーマス率いるニューワールド交響楽団創立の1987年、初代オーボエ奏者として同楽団入団。1990年よりボストン交響楽団準首席奏者及びボストンポップスオーケストラ首席オーボエ奏者を兼任。更にニューイングランド音楽院で教鞭をとる。日本での活動としては88年より“若尾オーボエキャンプ”を毎年行っている。98年クリストフ・エッシェンバッハ氏と共演のデビューCD「カンツォネッタ」をはじめとし、ジョン・ウィリアムス氏等の著名な音楽家とのCDも多数リリースしている。近年では代官山ヒルサイドテラス音楽祭音楽監督、スーパーワールドオーケストラ首席オーボエ奏者など、ソリスト以外にも様々な活動を展開している。
http://wkboston.exblog.jp/
1 2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15 16
17 18