ボストン交響楽団オーボエ奏者 若尾圭介の

ボストン交響楽団オーボエ奏者 若尾圭介の クラシックな日々 in ボストン

【第6回】
 アメリカ的・我が家の育児論

01
パパとオーボの練習中

謹賀新年。今年も宜しくお願いします。

 ここアメリカでは、言わずもがな家事や育児の夫婦分担は当然のこと。私も一アメリカ住人として、どんなに忙しいスケジュールに追われようとも良い家庭人たるよう日々奮闘中。 特に、今月末に2歳の誕生日を迎える我が家の一人娘の育児にはことのほかハッスルして取組んでいます。
 真冬のボストンで冷気が肌にめりこむように寒い朝に生まれた娘。しばらくはどこへ行くにも細くて小さな娘を、ボストンの冷たい風から守ろうとコートに包み込むように足早に歩いたものでした。・・・・・・あれから2年。
 近頃では、寝ているばかりの赤ん坊からイッパシの意志持つ幼児へと変貌著しい。言葉も達者になってきて『パパ、ダミ! ダミヨ〜!(だめよ)』『パパ! ごはんよ〜!』『パパ、デンヤヨ〜!(電話よ)』となんだかウルサイ。私がオーボエを吹くと『オーボ、オーボ!』と、彼女のオーボエであるアルトリコーダーを持ってきて、ちょこんと隣に座り一緒に吹くこともしばしば。これが、フレーズの出だしが合い、リズムや音の強弱も真似をして、私が吹き終わればピタリと終わり、ニヤリと目を合わす、と絶妙なのです。
 家での練習時、陶酔した状態でオーボエを吹くことがあり、どうやら娘はこれを観察しているらしい。ある時、彼女が目をつむり、眉間にシワ寄せ、大きなリコーダーを高々と上げ、ぐるりと回しながらピーピーと吹き始めたときには、私の演奏中の様子にそっくりだと、見ていた者全員でどっと笑いがおこりました。

子どもの好きなようにさせること

02
ぴお(ピアノ)弾いているフリ

 日々成長していく娘と、これからどんな親子の関係を築いていこうか。子どもにとって必要最低限のこと、毎日の生活、危険回避、愛情、出来うる限りの環境を整えてやるという基本は言うまでもありません。そこから一歩踏み込み《温かい目で見守りながらの放任主義》を貫いていけたら良いなと思っています。
 自分が子どもの頃は、大人にやれといわれたことでも気の向かないことには見向きもしませんでした。かなり扱いにくい子どもだったため、『好きなようにさせる』しかなかったんだろうと思うのですが、これが却って良かったのです。さりげなく道標を示したら、あとは《好きにさせる》ことで子どもが様々な環境や情報の中から自然に学んだり、選び取るものはその人間の本質となっていくものです。誰かに言われた事でなく、自分で掴んだもの、自ら学んだものは自分の中で根付き、揺るがない。
 ボストンで育つ娘の周りでは、アメリカ人の先生や親達が口々に《手助けしないで好きなようにさせてあげましょう》と言っているのを耳にします。そんなふうにアメリカの子どもたちは、本能をのびのびと育てて成長してくるのです。ひ弱なことでは太刀打ちできないでしょう。
 愛情余っての過干渉、過保護は子どもの為にならない。そんな親の自己満足による煩さで、子どもの内にある可能性、内なる声が聞こえなくなっては残念です。
 親にできることは、良いものに興味を持つよう仕向けること位のもの。もしも子どもがこれをやってみたいと自分から手を伸ばしたら、出来るだけの協力をしてあげるというしかないようです。

そして、世界の中で生きていける力を

03
ヴァイオリンにも挑戦してみました

 ただでさえ複雑で、一筋縄ではいかない現代社会というのは、今や日本もアメリカも同じ。娘のような人種や言語、文化の違う世界をまたにかけて歩むバックグラウンドを持つ人は今後増える一方でしょう。子どものうちから、世界の何処ででも通じる力を培っていくことが何より大切だと長年の海外生活を経て実感しています。
 親になってみてわかったことだけれど、子どもに《好きなようにさせる》というのは結構忍耐力のいるシンドイこと。つい手を出したくなるところをグッと堪えて温かく見ていてあげる。娘が大人になるまで、いや、大人になったあとでも、ぜひそんなバランス感覚ある親でいたいと自分自身に願うような気持ちです。

 育児の先輩方からそんなにうまくいかないよ! と叱咤される声が聞こえてきそうな気もしますが、とりあえずこんなところが理想論。
 とにかくどんな国でどんな分野に進んでいくことになるにしろ、自ら学ぼう向上しようと思う気持ちがあれば大丈夫。そしていつか、生まれてきて良かったと心底思えるように逞しく人生を歩んでいってくれたら親としてこれ以上嬉しいことはないですね。

 
若尾
マンハッタン音楽院ジョセフ・ロビンソン氏に師事、卒業後同学院で教鞭をとる。マイケル・ティルソン・トーマス率いるニューワールド交響楽団創立の1987年、初代オーボエ奏者として同楽団入団。1990年よりボストン交響楽団準首席奏者及びボストンポップスオーケストラ首席オーボエ奏者を兼任。更にニューイングランド音楽院で教鞭をとる。日本での活動としては88年より“若尾オーボエキャンプ”を毎年行っている。98年クリストフ・エッシェンバッハ氏と共演のデビューCD「カンツォネッタ」をはじめとし、ジョン・ウィリアムス氏等の著名な音楽家とのCDも多数リリースしている。近年では代官山ヒルサイドテラス音楽祭音楽監督、スーパーワールドオーケストラ首席オーボエ奏者など、ソリスト以外にも様々な活動を展開している。
http://wkboston.exblog.jp/
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