
ボストン交響楽団オーボエ奏者 若尾圭介の クラシックな日々 in ボストン
【第4回】
音楽はミッション(後)
芸術をサポートすること

コンサートシリーズのことが
地域の新聞に紹介されました
ところが、始動の勢いといいますかシリーズ第1回目のコンサートの日が近くなっても何かが足りないのです。やはりどんなにカジュアルな、地域の方達の為のコンサートといっても、ある程度のまとまった資金がなければ思うように動けないということがありました。この先もコンサートの入場料だけが資金源となるようでは心許なく、共演者を募ることさえためらわれます。
そこで、事務局のスージーと考え合わせ、スポンサーを探してドネーション(寄付)を得ようと、急遽私のオーボエとピアニストだけの《ドネーションコンサート》を開催。ほんの数曲を心を込めて演奏し、コンサートシリーズへの思いを語り・・・・・・。内容としてはこれだけの《ドネーションコンサート》でしたが、プロジェクト発進の為の資金としては充分な、意義のあるサポートが集まりました。
アメリカでは、音楽や芸術は、どんな人の人生にも彩りを与えてくれるもの、芸術をサポートすることは価値あることという考え方が根付いています。《ぜひ資金援助を!》と堂々と銘打ったイベントやコンサートの存在価値は広く受け入れられていて、その趣旨に賛同する人が集まり、組織となっていくきっかけとなることも珍しくない・・・・・・。こんな現実を目の当たりにする度、アメリカで音楽活動のベースを持てることに心から感謝すると共に、また新たなチャレンジ精神も沸き起ってくるのです。
いよいよコンサート当日

リディーマー教会でのゲネプロ
出演者はボストン響イングリッシュホルン奏者のロバート・シーナさん、オーボエに私、セカンドオーボエは猪俣智佳夫さん、そして弦楽四重奏団。モーツァルトのオーボエトリオやイングリッシュホルンクァルテット、シューベルトの弦楽四重奏曲《ロザムンデ》など、バラエティに富んだ本格的なプログラムを組みました。
リハーサルを重ね、ドネーションコンサートまで設けて、準備万端で迎えたコンサート当日。気になっていたお客さんの入りも、礼拝堂の3分の2が埋まっているのが見え、秘かにホッと胸をなでおろしました。袖で待機する我々出演者の耳にも、牧師の開演の挨拶が聞こえてきました。『世界共通の言語であり、人々の心を動かす音楽のパワーを信じるケイスケ・ワカオ氏が、今夜私達のために素晴らしいコンサートを用意してくれました・・・・・・ケイスケにとって音楽はミッションなのです』

コンサートのポスター
『音楽はミッション(宿命的な責務)』。人間的にも尊敬する牧師にそう言われ、反射的にその言葉の意味を反すうしていました。
思えば、誰に言われたわけでなく、自発的にオーボエを手に取った13歳のあの日からずっと、何かに導かれるようにそう信じてやってきた音楽人生。音楽で何ができるのか、何を表現するのか、そして音楽を通して自分が出来る事は何なのか。音楽家として生きることの総括的な意義を、ズバリと突かれたような言葉でした。私にとって『音楽はミッション』という具体的な意味はどういうことだろう?
開演したコンサートでは、2本のオーボエとイングリッシュホルン、4つの弦楽器が軽やかに繊細に、深く重厚な石造りの教会に響き渡り、独特な音楽空間を生み出しました。地域の方の為のカジュアルなコンサートというコンセプトでしたが、内容は本格的なもの。
他に類をみない、オーボエ群と弦楽器の取合せというプログラム構成と、我々の熱演はとても好評で、今後の活動に弾みがつくような初回に相応しい手応えを感じました。
音楽はミッションとは

コンサートを聴きに来てくださったお客様と
厳かに真摯に音楽と向かい合う。そして人々に聴いていただく。より多くの人に聴いて頂く為には、時には大ホールを飛び越え、地域の皆さんの元に歩み寄ることはとても大切なこと。この活動は長い目で見ると、西洋クラシック音楽の普及、次の世代への橋渡しになるとも思いました。全てを企画し、思い切って演奏したという過程を踏んだからこそ、コンサートの終演後は充実感を覚え、燃焼し尽くした感がありました。
この燃焼感こそ演奏家としてのエネルギーの源、演奏家として生きているという感覚です。このような本能的な充実感は、真にやりたいことを遂行しなければ生まれてこないのだとも確信しました。
大ホールであっても、地域の教会や公民館であっても、コンサートの内容つまり音楽は同質のもの。『本物で』と、強くこだわりたい。
音楽は深く、神聖なる愛にも通じるもの。安易に相手(聴衆)に迎合するものではなく、確立された普遍的なものであると思うのです。コンサートを聴き終えたお客様の喜びに満ちた表情を前に、これからも、いつどこであっても同じ思いで、信じるものを心を込めて演奏しよう、これこそ音楽を通してのミッションなのだろうと思っています。
マンハッタン音楽院ジョセフ・ロビンソン氏に師事、卒業後同学院で教鞭をとる。マイケル・ティルソン・トーマス率いるニューワールド交響楽団創立の1987年、初代オーボエ奏者として同楽団入団。1990年よりボストン交響楽団準首席奏者及びボストンポップスオーケストラ首席オーボエ奏者を兼任。更にニューイングランド音楽院で教鞭をとる。日本での活動としては88年より“若尾オーボエキャンプ”を毎年行っている。98年クリストフ・エッシェンバッハ氏と共演のデビューCD「カンツォネッタ」をはじめとし、ジョン・ウィリアムス氏等の著名な音楽家とのCDも多数リリースしている。近年では代官山ヒルサイドテラス音楽祭音楽監督、スーパーワールドオーケストラ首席オーボエ奏者など、ソリスト以外にも様々な活動を展開している。
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