ボストン交響楽団オーボエ奏者 若尾圭介の

ボストン交響楽団オーボエ奏者 若尾圭介の クラシックな日々 in ボストン

【第3回】
 音楽はミッション(前)

01
教会の牧師、スタッフと

 我が家の近所を車で走っている時、偶然見つけた美しい教会。このリディーマー教会の日曜礼拝に通うようになって、まもなく2年になります。
 子どもの頃、クリスチャンだった祖母に連れられ、教会には何度か行ったことがありました。礼拝堂に流れる清らかな空気、毎週礼拝に訪れるという人々の謙虚な行為。まだ独身だった若い頃から、いつか子供ができたら家族揃って日曜礼拝に通いたい、そんな家族を作れたら・・・・・・と、心の片隅に憧れに似た思いがありました。
 日本で生まれ育った私が、アメリカに長く住み、この社会により溶け込んでいく為には、アメリカ社会の根底にあるキリスト教の素養を心得るのが大切だと、いつしか考えるようになりました。
 そして、娘が生まれて数ヶ月経った春のある日、ボストンに住む多くのアメリカ人と同じように日曜礼拝に通ってみよう。そんな思いで、教会の門を叩きました。
 その時はまだ、貴重な人々との出会いや、またひとつここで新しい世界が広がる出来事が待っていようとは思ってもみませんでした。
 今回と次回の2回に渡って、この秋ボストン郊外チェスナット市の教会でスタートした、私がプロデュースするコンサートシリーズ立上げ奮闘記をお伝えします。

 

ボストンでコンサートシリーズを立上げるまで


リディーマー教会

 礼拝に通うようになってすぐに、礼拝堂のすうっと高い天井と、教会ならではの音響の良さにピンと来て、『ここでオーボエを吹いたら響くなぁ。コンサートが出来たら素晴らしいものになる・・・・・・』 と思いました。
 そのうち、牧師や事務局の方達からお願いされて、礼拝の中で1曲バッハを演奏した事がきっかけとなり、コンサートを開催することになりました。
 アメリカやヨーロッパでは、街の至る所にある教会で、気軽なものから本格的な内容のものまで、頻繁にコンサートが催されます。
 私としてはどんな状況であれ、コンサートをするなら、信頼できる仲間と共に、なるだけ素晴らしいものにしたいのですが、教会主催のコンサートは、ビジネスが目的ではないため、宣伝も礼拝中や教会員に向けた会報誌でアナウンスをするのみ。
 ボストン響の同僚達を呼び集めて相当レヴェルの高いコンサートにしたものの、この教会での初コンサートは結局、40名くらいのお客様が集まったのみでした。
 それでも、コンサートは大好評で、教会にはこれからも続けて欲しい、次はいつですか? という声がたくさん寄せられました。そこで《ぜひ1年に3回くらいの、コンサートシリーズをやってみませんか》との話が持ち上がってきたのです。


シンフォニーホールへの最寄り駅は《シンフォニー》

 常日頃から、地域の皆さんのための気軽なコンサートをもっと開催するべきじゃないかと思っていました。というのも、音楽が大好きでも、街の中心地にある大ホールまで出かけていくことが無理な方達もたくさんいるからです。音楽家は大ホールで、でんとお迎えするばかりでなく、自らが地域の方達の元へ行って演奏をすることで、もっと音楽が身近になり、音楽を聴く機会も増えていくものではないか・・・・・・と思っていたので、この話に膝を打って乗り気になり、話はトントン拍子に進みました。
 また音楽家、演奏家にとって演奏する場、表現する場が常設される。つまりこのようなコンサートシリーズを持てるというのは、願ってもないこと。
 音楽そのものを表現することもさることながら、共演者、プログラムなど企画段階から携わりコンサートを創り上げることは、自分の欲することの実現で、これもまたひとつの表現ですから、このような機会を得て俄然やる気が沸いてくるのでした。

 コンサートシリーズ立ち上げに際して、人との出会いも特筆すべきものでした。このプロジェクトを全面的に担当する、教会の事務局長、スージーは50代後半のアメリカ人女性。彼女は、ひと言で言うなら《非常にデキル人》。なにしろ行動が早い、ミスしない、困難なことも乗り越える術を編み出し、常に先のことを考え、人の心を読んで全ての仕事をする。つまり、プロジェクトを立ち上げて実行に移し、成功させるには欠かせない人なのです。彼女がいてくれて、良かった! と何度思ったことか。
 こんなきらりと光る能力や、人としての魅力、また溢れるような優しさや温かさを持つ《普通の人々》に出会うたび、アメリカの底力、裾野の広さを見るような気がします。それほどの頼もしい味方を得て私のプロデュースするボストンでのコンサートシリーズが、2007年秋、誕生することになりました(次回後半へつづく)。

 
若尾
マンハッタン音楽院ジョセフ・ロビンソン氏に師事、卒業後同学院で教鞭をとる。マイケル・ティルソン・トーマス率いるニューワールド交響楽団創立の1987年、初代オーボエ奏者として同楽団入団。1990年よりボストン交響楽団準首席奏者及びボストンポップスオーケストラ首席オーボエ奏者を兼任。更にニューイングランド音楽院で教鞭をとる。日本での活動としては88年より“若尾オーボエキャンプ”を毎年行っている。98年クリストフ・エッシェンバッハ氏と共演のデビューCD「カンツォネッタ」をはじめとし、ジョン・ウィリアムス氏等の著名な音楽家とのCDも多数リリースしている。近年では代官山ヒルサイドテラス音楽祭音楽監督、スーパーワールドオーケストラ首席オーボエ奏者など、ソリスト以外にも様々な活動を展開している。
http://wkboston.exblog.jp/
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