(2008年3月31日掲載)
匿名社会が恥知らず人間を生む!
昨日は花見へ行きました。まだまだ結構肌寒いですね。さて今週は若者とインターネットの関係について気になる記事がありました。それは、『週刊文春』 04/03日号(03月27日発売)の『教師と生徒「プライベート・メール」の仰天中身〈1100人アンケート〉「かわいい下着で来てね」「いまから自殺します」』と『週刊ポスト』 04/04日号(03月24日発売)の『中1女子が「校内自殺」 「学校裏サイト」「メールいじめ」の凄惨』です。
『週刊ポスト』の記事によると、小学生もインターネットを利用するようになった結果、いじめのツールとしてネットが悪用されている。その温床となっているのが、学校裏サイトだそうです。学校の公式HPとは別に生徒たちが独自に作った掲示版でその数はいまや3万8000件にも登るとか。実際にサイトを見た記者が驚くほど、個人を中傷するような書き込みが氾濫していると書かれていました。
私は、こうなることを以前から危惧していました。ネットの大きな特徴である「匿名」が、人の持つ嫉妬や憎しみといったネガティブな部分を噴出させているんだと思います。匿名のネットの世界ではいかに人は恥知らずで、おぞましくなれることか・・・・・・。
例えばそれは大人しくてまじめな人に限って、宴会になると酔って上司に絡んだり、同僚を殴ったりするのに似ているのかもしれません。酔いが自己抑止力を奪ってしまい、普段しっかり奥に隠している本性が顔を出す。ちなみにこれは余談ですが、聞いた話では以前、某週刊誌編集部の宴会で、酔った部員達に編集長が布団ですまきにされて旅館の屋根から落とされたことがあるそうです。編集長も痛かっただろうけど、そんなことしたら後の報復が恐しいよね(笑)。
もちろん、インターネットの全てがいかんと言うつもりはありません。インターネットが出てくる前は情報とは、プロの機関、組織から一方的にかつ大量に大衆に伝達されるもので、それを受ける立場の大衆からは投稿欄や、視聴者センターを経由するほかに情報を送り返す術がなかったんですね。インターネットの普及によって一気にそれが双方向になった。どんな人でも新聞社やテレビ局になれるわけですから、内部告発に使われるなど世の中を良い方向に変えうるツールとしての使い方があるんだろうと思います。
ただ、インターネットではその匿名性ゆえに、普段はしっかり蓋がされていて、気安く開けることは許されないパンドラの箱が、簡単に開けられてしまう、まさに身も蓋もない状態です。
この状態を解消したいなら、ネットを禁止するしかないでしょ。日本は文化的にアメリカのように実名で意見を主張することがないから、余計に隠微な形での誹謗中傷が大流行するんでしょうね。
人間の欲望の中でも性欲が日常生活から切り離されて忌避されていると思います。特に昔は、SMや同性愛など特別な世界は愛好者たちだけのものでした。でもインターネットがここまで広がった今では住み分けが崩れて、ボーダーレスになっていますよね。『週刊文春』の記事によると、教師によるセクハラなどの不適切メール事件が頻発しているそうです。教師は聖職とか言うけど、私は、神でもなく仏でもない欲望や感情を持った生身の人間だと思います。先生だからそういうものがないということはないですよね。
僕だってキレイなお姉ちゃんを見ると、アレやコレやとよかならぬことを空想したことがありますよ。ほんの子供の頃からそうだったし、男だったらみんなそうでしょ。どうですかみなさん。違うとは言わせないよ(笑)! だけど、現実にやったら人生おしまいだから、セルフコントロールして、欲望を隠して社会に適応しているわけでしょ。でもネットはそれを画面上に引き出してしまうんですね。その世界に日常的に接していると、私生活にフィードバックしてセルフコントロールを失った人間を作り出してしまう。それが、この間のような土浦の8人連続無差別殺傷や、岡山で起きたホームからの突き飛ばし事件のような妄想と現実の区別が曖昧になっているような事件が増えている一因となっているのかなと思います。
ゲームやネットがこんなに出てくる前にはこんな事件が起きなかったというのが、実感としてあります。土浦の犯人はゲーム大会で準優勝経験を持ち、逮捕時にもゲームを持っていた程のゲーマーだそうです。空想と妄想を刺激するようなネットやゲームにさらされ続けた結果でしょうか。とはいえ、ゲーマーすべてが殺人を犯すわけではなく、大半の人は欲望を抑えているとは思いますがね。
かつてのように金が欲しい、物が欲しいという物欲を充たすためや怨恨、痴情といった動機を達成する手段としての殺人ではなく、2件とも人を殺してみたいという殺しが最終目的の殺人。ここに豊かな社会の病理性が現れていると思います。
昔、貧困を背負い教育も受けられずに殺人を犯した永山則夫元死刑囚が書いた「無知の涙」という本がありました。今の時代は同じムチでも、「無恥の涙」でしょうね。匿名を隠れ蓑にして、モラルそこのけで恥知らずなことが出来てしまう。
バーチャルな世界と、リアルな世界が共存する今、もう後戻りは出来ません。バーチャルリアリティーが妄想を膨らませ、妄想が事件を起こす。この構造が変らない限り、まだまだこういう事件が起きると思いますよ。
早すぎる最終回を惜しむ!
注目の『週刊新潮』の『【短期集中連載】 新・「裁判官」がおかしい!』ですが、今週の『「言論の自由」はこうして滅びる』の回で早くも最終回を迎えてしまいました。いい連載だったのに非常に残念です。
富山の冤罪事件のように、有罪判決が出た後で真犯人が見つかったケースでは、嘘の自白をでっちあげた警察や検察も非難されるべきですが、それを見極められなかった裁判官にも責任があると思います。でも現行では、間違った判決を出した裁判官を裁く法律はありません。職業上のミスなのだから、電車の運転手が脱線事故を起こすのと同じくらい重大な過失なのにも関わらずです。だからこそ、裁判官を正面に据えて、批判論評することは週刊誌にできる絶対必要なこと。来年からは裁判官員制度も始まりますし、司法は他人ごとじゃありませんよ。
ただこの制度、有罪か無罪かを決めるに留まらず、量刑まで決めるものです。ずぶの素人の手に余るんじゃないかと思います。自白調書が信頼できるのかどうやって判断するんですか? 量刑の相場は決まっていますから、プロの裁判官がリードするんでしょうが。僕がやれって言われてもちょっと躊躇してしまいます。まあ、義務だしやるしかないんでしょうが・・・・・・。
ましてや、強い人や声のでかい人になびく事なかれ主義の多い日本文化のもと、うまく機能しないで、司法が無茶苦茶にならないよう祈るばかりです。
鳥越俊太郎
/ニュースの職人

1940年福岡県生まれ。京都大学文学部卒。65年、毎日新聞社に入社し社会部記者に。88年『サンデー毎日』編集長。89年、テレビ朝日「ザ・スクープ」のキャスター。2001年、「桶川ストーカー殺人事件」などの報道により、日本記者クラブ賞を受賞。
鳥越さやか
/シンガー・ラジオパーソナリティ・俳優

1972年東京都生まれ。清泉女子大学英文科卒。フランス国立高等演劇院のワダユタカ教授の元で演劇を学び、同教授が率いる『劇団CAT21』に10年在籍。その間もフランス・イタリアに計2年半語学・演劇留学。2004年よりJ−WAVEやTBSラジオでパーソナリティを務める。同年フランス語で歌うシャンソンコンクールで優勝。以来、ライブコンサート、シャンソニエなどで歌手として活躍中。

