週刊誌のツボ 鳥越俊太郎 

<第19回> 「呼称から見る週刊誌の読み方」

(2008年3月4日掲載)

紛らわしいタイトルに唖然

 最近の週刊誌は、こぞってロス疑惑を取り上げました。週刊文春(3月6日号)では、11ページ、週刊新潮(3月6日号)でも9ページ。週刊文春は、ロス疑惑報道のきっかけとなっただけはあって、やはり扱いが大きいですね。
 僕は今回三浦氏が逮捕されてからというもの、各メディアが三浦和義氏のことをどう呼ぶかに注目していました。三浦氏は今までにメディア相手に何百本も訴訟を起こしています。本人の話によると8割勝訴だとか。今回日本の警察は関わっていませんから、取り上げ方を間違うとまた訴訟の対象になる可能性がある。ということで、新聞やテレビもかなり慎重になり、NHKも含めて三浦元社長と呼んでいます。訴えられたら困るからという及び腰の表現は、いつぞやあるタレントが事故を起こした時にメンバーと呼んだのと同じですね(笑)。日本国内では無罪が確定しているから、一番筋が通った呼び方は三浦和義さんか三浦和義氏のはず。それを『週刊文春』は三浦容疑者と呼んでいます。アメリカの警察に逮捕されたんだから容疑者だろうということでしょうが、外国の警察に逮捕されたのに、国内で容疑者と呼ばれるのかは解釈が分かれるところです。『週刊新潮』はなんと呼び捨て。呼び捨ては、二昔前に印刷物が殺人者を呼んだ方法ですよ。
 中身的にいうと2誌とも、昔の話の焼き直しでなんら新しい情報はありません。というのは、記事が書かれた時点では、アメリカの警察および検察の取材がほとんど出来ていないからでしょう。
 2誌の違いは、週刊文春で「疑惑の銃弾」の担当デスクをつとめた安部隆典氏についてぐらいですね。新潮は『「借金踏み倒し」を告発された元文春「疑惑の銃弾デスク」』という記事で、安倍氏をこき下ろしている。文春はこの元デスクが『安倍隆典取材班キャップが明かす「秘話・アメリカが捜査権を日本に渡した日」』と題し、とくとくと告白をしています。
 どれもそれなりに見出しに沿って書かれていますが、『週刊文春』の『ロス市警が握る「決定的な新証拠はDNA」証言』なる記事はいけなかった。読んで思わず「なんやこれダマシやんか」と唖然としました(笑)。このタイトルからすると、一美さん銃撃事件で使用された銃弾からDNAが出たと思うでしょ。ところがここでは、ロス市警が解決した別事件を紹介しているだけ。また「銃弾からDNA」という紛らわしい中見出しがとってある。こういうことをしちゃダメです。

週刊誌は27年前のまま

 今回、週刊誌を読んで特に気になったことがあります。それは、新しい事実をなんら取材出来ていないのに、27年前から時が流れていないかのように三浦氏をクロとする論調です。あれから三浦氏は、裁判を終えて殺人事件では完全に無罪が確定している。つまり、日本の国内法でいうと刑期を終えた真っ白な一市民のはず。それなのに、依然としていかにもやったに違いないといった目線に立って報道されるのは、おかしいと思います。確かに、三浦さんにはそう思われても仕方ないところもある。でもそれはただの心象に過ぎませんよね。三浦氏のような立場にある人をどう扱うかは難しい問題で、マスコミはもう少し悩んで欲しい。これは市民社会の一つの原則だと思いますし、大事な問題が含まれていると思います。
 もし、仮に週刊誌が容疑者と呼称する場合は、前文で「日本の国内法では無罪になっているが、今回アメリカの警察が逮捕して捜査が始まることを重く見て、あえて、三浦容疑者と呼ぶ」と信念を書けばよいと思います。

日本人の人権感覚

 常々、日本は人権感覚が遅れていると思います。例えばそれは、日本で警察に逮捕された時点で、犯人扱いされること。裁判で判決が下されるまでその人は、無罪であるという感覚は日本にはまだない。だから一度警察に捕まった人は、一生犯罪者として烙印を押されてしまいます。冤罪で無罪になっても、本当はやってるんじゃないの? という目で見られ、地域社会で肩身の狭い思いをして生きている人はたくさんいます。僕はそういう人たちには、冤罪だったら顔を出して、全て明らかにした方がいいという話をしていますが、なかなかみんなそこまでは踏み切れない。難しいところがあります。
 そして、犯罪に巻き込まれたのに、メディアに叩かれることだってあります。沖縄で米海兵隊員に少女が暴行された事件がありましたね。『週刊新潮』など一部のメディアは、付いていった方も悪いという論調で報じました。確かに軽はずみだったかもしれない、でもそれで犯罪行為が許されるわけではない。彼女は、被害者でありながら、いろいろと言われて告訴を取り下げてしまいました。
 世の中全体に、警察や役所は常に正しい。といった暗黙のルールがある。だから週刊誌は三浦氏のことをこんな風に書けるのでしょう。世の中が真っ当な人権感覚を持っていたら、出来ないことですよ。こういうことを、僕らメディアの中にいる人間がどんどん言っていかないといけないと思います。

今回注目した週刊誌

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プロフィール

鳥越俊太郎
/ニュースの職人

鳥越俊太郎

1940年福岡県生まれ。京都大学文学部卒。65年、毎日新聞社に入社し社会部記者に。88年『サンデー毎日』編集長。89年、テレビ朝日「ザ・スクープ」のキャスター。2001年、「桶川ストーカー殺人事件」などの報道により、日本記者クラブ賞を受賞。

鳥越さやか
/シンガー・ラジオパーソナリティ・俳優

鳥越さやか

1972年東京都生まれ。清泉女子大学英文科卒。フランス国立高等演劇院のワダユタカ教授の元で演劇を学び、同教授が率いる『劇団CAT21』に10年在籍。その間もフランス・イタリアに計2年半語学・演劇留学。2004年よりJ−WAVEやTBSラジオでパーソナリティを務める。同年フランス語で歌うシャンソンコンクールで優勝。以来、ライブコンサート、シャンソニエなどで歌手として活躍中。