都市に曲面を
- 小林
- 先生は今は個人の設計事務所を持たれているんですか?
- 左高
- いえ、もう設計事務所を作ることは辞めたんです、組織を管理する能力もありませんし。その代わり世界の設計事務所全部が自分の事務所と思うことにしたんです。
- 小林
- それはどういう意味ですか?
- 左高
- 色々やらなきゃいけないテーマはあって、事務所を持つとお金の心配、仕事の心配育てる心配色々あって、60くらいになったら辞めて、縁ある人たちとコラボレーションすればいいと考えるようになりました。
- 小林
- すごい面白いことになってきましたね(笑)
- 左高
- 僕は日本で育った建築家の方たちに比べるとずいぶん違う育ち方をしていると思います。
- 小林
- 建築家というくくりの中に納まらない感じがします(笑)。
- 左高
- そういうとじゃあお前は何者なんだということになってしまうので、生涯一建築家という所は基本として残しておきたいと思います(笑)。一口で、建築に関連する仕事といってもその下には建築屋さんと建築士さんと建築家さんがいるんです。建築屋さんいうのは物を作る人たちですね。
- 小林
- 大工さん?
- 左高
- それもそうだし、あとはゼネコンの人たちもそう。建築士というのは台風が来ても屋根が飛ばない、地震が来ても壊れないとか、日照の問題で近隣の人の権利を侵害しないとかいう部分を含めて、建物を社会のルールに乗せる人たち。ま、ルールがない建築士もいましたが(笑)。
- 小林
- そんな事件もありました。
- 左高
- 建築家はその時代時代の社会が抱えている問題を建築的手法で解決しようとする。昔で言えば、攻め落とされにくい城造りに長けていた太田道灌や加藤清正とかね。
理想の形は、1人の人間が建築屋と建築士と建築家の要素をバランスよく兼ね揃えていることなんです。ところが今は完全に分業になってしまっている。高名な建築家に頼んでも良いものが出来ないのは、そのバランスに偏りがあるからなんでしょう。 - 小林
- 左高さんはご自分ではどうだと思いますか?
- 左高
- 建築屋の部分はかなり衰退していますし、建築士の部分はなんとかフォローしているかなー? だけどやっぱり建築家の部分が一番強いかな。環境を考える人間としては、もっとトレーニングを積まないと思っていますが、ついつい忙殺されまして(笑)。バランスが悪いな。
- 小林
- 今はどのようなお仕事を手掛けていらっしゃるのですか?
- 左高
- 都市にもっと曲線や曲面を取り入れたいと思っています。街の情景をカメラで撮ってみると直線だらけ。石、コンクリートとみんな鋭利でしょう。こんな中で子供を育てたらどうなってしまうか。大人も疲れが取れなくてくたびれてしまいます。潤えないし安らげない。我々の顔はみんな曲面ですし、人の体の中で曲線でないものはありません。
- 小林
- 人間が直線で出来ているとどうなるでしょうか。笑わないから喧嘩が起きそう(笑)。
- 左高
- 私は優しい心を持った人たちを育みたい。そのためには曲面を取り入れた都市環境を造ることも大切です。膜構造建築に未来の可能性を見出したいと考えています。
- 小林
- 昔読んだアメリカインディアンの本にも、人の繋がり、自然の繋がりなど全ては、輪でつながっている。輪に囲まれて暮らしたいのに、現代の建物は鋭角的で痛いと書いてありました。今のお話につながるところがあると思います。
- 左高
- 今の建物は機能と合理性重視。
- 雑誌ネット
- あとは威圧。
- 小林
- そして予算削減(笑)。
- 雑誌ネット
- 私の友人に風水師がいるんですが、彼女はいつも都庁の建物が東京を悪くしていると言うんです。あの尖ったツインの建物を壊さなければ東京が良くならないとまで。なんでも、富士山から皇居までは竜の通り道だそうで、途中にあんなに尖ったものがあると、気が通らずに東京に溜まってしまってしまうそうです。
- 小林
- だからトラブルが絶えないんですね(笑)
- 左高
- ごめんなさい。都庁を設計したのは私の恩師です。
- 雑誌ネット
- あっ。ごめんなさい、知らなくて。
温泉を使った街づくり
- 左高
- 私はルネイズム提唱者MR.ルネとして、温泉を使った街づくりをして人間復興することも考えています。温泉は自然界に与えられた資源です。これを使って病気を予防することで、医療費を制御できる。ODAも活用してタイやベトナム、マレーシア等の温泉地に人間と健康を再生できる街を作りたいです。世界中の健康再生温泉都市をネットにして、保険の対象になるように世界共通のハードとソフトを整備したら、もっと人間が豊かで、優しく、健康になって救われるんじゃないかなと。
- 小林
- 確かになんだか人間は追いつめられている気がしますもんね。いつそう思うようになりましたか?
- 左高
- ドイツにいた25の時でしょうか。ドイツにも温泉がありますが、ドイツには健康保険の他に、クア(健康増進)保険があって、これはいいなと。病気になってからではなく、予防するための保険制度で、温泉での入浴に保険の適用が認められていました。
これを是非世界ネットで実現させたい。もしこれが実現したら日本でその保険に入ると、インドでアーユルヴェーダをやる時も、ヨーロッパへ行ってクア施設へ行く時も保険が適用されるわけです。 - 小林
- それは優雅な旅ですね(笑)。私は舞台を作っているのですが、芝居を見るのによい劇場とはどういうものでしょう。
- 左高
- 題材によって全部変わります。ミュージカルとオペラでもずいぶん違うでしょう。昔シンフォニーホールを設計したことはあるけれど、使う材質によって音の跳ね返りは違うでしょう。
- 小林
- 日比谷に「シアタークリエ」という600席ほどの劇場が誕生しました。舞台と客席との一体感が生まれる空間になればと小さく作ったことと、地下にある劇場ということで思わぬ波及効果がありました。ロビーが狭いので、休憩時間にお客様が出ていくんですね。そうすると周りのカフェがにぎやかになったりとあたり一帯が少しずつフワっと華やかになってきたんです。都市が作られるってこういうことなのかな、なんて思います。
- 左高
- おっしゃる通りだと思います。温泉を使って街作りした都市には、お花屋さんやタバコ屋さんみんなのところにそれぞれの商売に見合ったお金が落ちる、そういう街作りを目指したいと思います。日本の場合は大きな資本がボンと来て商業施設を作って、その中でお金が回っている。雇用をして、税金さえ払えば、法律的には問題ないのかもしれないけれど、そんなの面白くも何もない。
- 小林
- 温泉構想、是非実現させてくださいね! 楽しみにしています。
左高さんとお話していて、宇宙に浮かぶ青い球体に限りなき血湧き肉踊る冒険が秘められていると夢想していた幼少の頃の自分の眼差し、その目に映っていた世界の景色、それをリマインドしました。左高さんの理論を形作るリアリティーは、その純粋で情熱的な胸にあるファンタジーにしっかりと守られているように思います。この二つの対極があるからこそ、地球は回転の軸を見失うことはないのだと、いま再び確認します。

小林香
Show Creator。
京都市出身。18歳で京都フィロムジカ管弦楽団を設立。その功績が認められ、20歳でニューヨーク・フィルにインターン留学。同志社大学卒業後、ミュージカルの演出・振付家に師事。26歳で東宝と最年少プロデューサー契約を交わし、「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」「マリー・アントワネット」「ベガーズ・オペラ」「SHOCK」などの大作に携わる。07年に日比谷に生まれた新劇場・シアタークリエのこけら落とし公演をプロデュース。作詞、ショウの演出・構成においても現在もっとも注目されているクリエイターである。

