Show Creator 小林 香の聞かせてください! 雑誌の履歴書

第8回 ゲスト 建築家 左高啓三

03月12日

(3) 「ルネイズム」とは/日本人はもっと怒っていい

「ルネイズム」とは

小林
先生はどのようにして社会学を学んだのですか?
左高
独学です。新聞や雑誌を切り抜いて分野別にまとめて半年や1年後に読み返すとそれぞれにストーリーが見えてくるんです。
小林
それはずっと続けていらっしゃる?
左高
そうですね。もう癖になっちゃって今もやっています。
小林
そこから見えてきた社会の動きを、建築に生かすわけですね。
左高
イタリアのインテリアの世界から、ポストモダニズムという言葉が出てきたことを知り、1989年には、モダニズムの次世代を表現する言葉としてルネイズムを発明しました。
小林
ポストモダニズムというとモダニズムのネクストという意味ですよね。ルネイズムってどういう意味ですか?
左高
モダニズムの言霊は、新しい物を生み出したい、創り出したいという人間の業(エネルギー)なんだと思います。何億人の人が一斉にそう思って行動するわけだから、それは凄まじいエネルギー体となる。その結果、こんなにも人々が病み、傷つき、くたびれた。また、60億もの人たちの無秩序な開発行為により、地球がへたってしまったんです。15世紀にルネッサンス運動(人間復興)という時代がありましたが、今は人間復興に加えて、自然復興もしないといけない時代が来ていると思います。2000年期は、人類が地球を再生させてゆくことに、腐心していかなきゃいけないという思いを込めて名付けました。この名前を慶應大学の社会学の先生とサウナで会うたびに、一緒に考えていただきました(笑)。こういうと冗談みたいですが、3年近く掛かってようやく「ルネイズム」という言葉を思いついた時には、100度近くあるサウナの中なのに震えてしまいました。文明とはモダニズム(新生)とルネイズム(再生)の2つのDNAを持った2重螺旋で形成されている生き物だと思います。どちらかに偏ると崩壊しかない。
小林
ルネイズムといった哲学や思想的な部分を、実際の建築に活かしていくことが建築家の使命なのですね。
左高
どのように実践していくかは、建築の分野で言えば空・体・気で表しています。空というのは、例えば、この部屋は立法体に近いけれど、そういう空間(空気)の形のこと。その形をどのような素材や構造方式で作るのかが体。気は一番難しいけれど、気を創るマテリアルは水や音や光、花、色彩ですね。建築家は、クライアントの意向に沿いつつ、3つをシンクロナイズさせて、その人にとって最高の環境を作らなければならない。でもその人が年を取ればまた快適さの形は変わるんです。だから建築に永久ということはないですね。
小林
人によっても落ち着ける場所って違うのでしょうね。
左高
そうですね。居心地が良い場所には、その場所に染み付いてるDNAのようなものがあります。いま私たちがいるこの部屋は、CDがずいぶんたくさんありますが、この部屋から受ける印象は、かなり茶室に近い空間スケールですね。茶室は宇宙だと思うんです。
小林
茶室? 宇宙?
左高
ええ、この部屋は大の字に寝っ転がって、あの天井のしみを見ながらいろいろな事に思い巡らせそうな感じがする。
雑誌ネット
落ち着いて作業が出来るという意味では確かに茶室に近いのかもしれません。というのも、今日お借りした、この場所はCMに使う音楽を聞くための部屋なんです。音を選ぶ場所なので、外からの音を遮断して、中の音も出来るだけ外部に漏らさない作りになっています。
左高
そういうのって目には見えないんだけど、この部屋に染み付いている、この部屋の経験が重ねている記憶に音が入っているんでしょうね。

日本人はもっと怒っていい

小林
今まで伺ってきたお話を考えると、先生にとって社会学が全ての原点となっているのですね。今日は建築といってももっと、「建物」そのものの話が中心になるかと思っていたのですが、人が生きていく上での空間というもっと根本のお話をしてくださっている気がします。
左高
現代社会学の考察がないとなんのために何を目的に建築を具体化するのかという認識が難しくなって、ついデザインにだけ力が入った設計になってしまったり。だから、それを少しでもみなさんに伝えなきゃと焦っています。建築学科のカリキュラムに早く社会学を入れなきゃいけないと思っているんです。
小林
建築家の学生は社会学を学ばないんですか?
左高
残念なことにそうなんです。日本の大学の建築学科には一般的には教養課目に社会学のカリキュラムを持ち合わせていないようです。
雑誌ネット
昔の神社や仏閣といった建築が建てられたころには、社会学なんて言葉すら無かったかのかもしれませんが、自然と地域社会との共生を考えて、うまく建てられていますよね。それはいつ崩れてしまったのでしょうか。やはり高度経済成長期ですか?
左高
日本は中国、韓国、ヨーロッパ、などから色々な影響を受けていると思いますが、現代社会においては一番顕著なのがアメリカンナイズだと思います。
雑誌ネット
アメリカの住宅って、個人のプライベートを守る空間という感じがします。
左高
昔の日本語には英語の「プライベート」に当たる言葉が無かった。それは日本人がそういう暮らしをして来なかったからですね。ところが、第2次世界大戦後以降カミカゼみたいにやられたら困ると、教育にしろなんにしろアメリカ流にされてしまった気がします。そういうことで、日本人らしさがなくなっちゃったんじゃないかな。僕は是非みんなに日本の心を取り戻して、再生させて欲しい。皆で考えて新たに現在と未来の日本人の心の在り方を作り出して欲しいと願っています。今その意識さえ持てば、取り戻せる峠のところに来ている気がします。変な軍国主義からではなく、民主的にもう一度日本を見直して、世界と共に世界を救ってゆく人たちに日本人がなれたらいいですよね。
小林
そう考えると建築って重要なものだったんですね。衣食住って言う割に、「住」って意外と見過ごされがちといいますか・・・・・・。建築を学ばれる方が、社会学が必修でないことが不思議な気がします。
左高
日本は「衣」と「食」に関しては世界でもトップレベルの域に達しているのに、「住」に関してはおざなりですね。あきらめてしまっている所がある。もっとスポットライトを当てていかないといけないんです。
中国と比較すると、日本人の給料の5分の1か、6分の1しかもらっていない。それなのに、彼らは100平米、150平米のところに暮らしている。むろん全部ではありませんが。それに対して我々の平均は70平米。天井高も低い。そんなところで暮らしていて、どうして世界と肩を並べて世界作りなど出来るでしょうか。この格差にもっと疑問を持って、怒って叫んでいいんです。なぜだー!と。これを救う手立てとして私は「SATAKA Structure System」を発明しました。
小林
どういうシステムでしょう?
左高
マンションの新工法です。従来の工法だと、平均2.5メートルくらいしか天井高を確保できない。新システムだと従来と同じ面積、規模、住戸数、同じ建物高さでありながら、最大で3.75メートルの天井高がスタンダードタイプでも可能です。
小林
一体どういう仕組みですか(笑)? 魔法みたい。
左高
アイデアはシンプルなんです。要するに、部屋によって床の高さを変えているのです。階高と梁背は一定にしておきます。それで床を梁の上部に作る正スラブと、下に作る逆スラブを交互に繰返すと、大きい空間、小さい空間と縦方向に交互に大小の空間が生まれます。上の階の部屋が3.75メートルだと、真下の部屋は2.5メートルになる。てれこになるわけです。だから天井の高い部屋はリビングに、低い部屋はベッドルームにと使い分けることが出来ます。
小林
なるほど。床の高さが同じではないのですね。今まで誰かが考えていそうですが。
左高
それが考えなかったのかなー。世界中で特許を出したら全部受け付けてもらえちゃった(笑)。
小林
この構想はいつ閃かれたのですか?
左高
考え方としては、既に1970年に、大学の卒業制作で設計していましたよ。それは形が階段状ピラミッドなので、日本では伝統的な形ではないので、実現が難しそうですが、是非中近東で実現させたいと思っています。
小林
素晴らしいのが、これを作られたきっかけが合理的な理由からでなく、少しでも日本人に天井の高い部屋に住んでほしい、という思いからだったところだと思います。
左高
私は、人間再生つまりルネイズムの提唱者ですからね(笑)。

03月12日

(3) 「ルネイズム」とは/日本人はもっと怒っていい