Show Creator 小林 香の聞かせてください! 雑誌の履歴書

第8回 ゲスト 建築家 左高啓三

建築と社会学の関係

小林
4年のドイツ生活で得た中で一番大きかったことはなんですか?
左高
オットー先生から社会学の勉強をしなさいと言われたことです。21世紀の建築家は社会学の基礎がないとだめだと言われました。それから、社会が抱えている問題とか、未来に社会が抱えると予想しうる問題とか、過去の先進国がどのような問題の解決方法をしてきたのか。
それに対して建築家がどのような寄与、貢献をしてきたか。そういうことまで含めて考えるようになりました。文句が多い爺さんにだけはなりたくないと思っていたけど、どんどん近づいていっている気がしますねー(笑)。
 オットー先生は自然科学からも着想を得ていました。人間、動物、植物なんでも淘汰の歴史の上に成り立っておりその中に現れる形は真理があるし、美しい。重力界におけるあらゆる洗練された選りすぐられた形態がそこにあると。先生の作品には、蜘蛛の巣をヒントにしたものもあります。モントリオール博覧会の西ドイツ館が代表的です。
小林
これ下から見ると本当にそうですよ
左高
そうですねー。ある時など、肉屋へ行って豚の目玉を買ってくるようにと先生がおっしゃるんですよ。
小林
こわ〜(笑)。
左高
そうでしょう。こわいでしょう(笑)。何に使うんだろうと思いながら買ってきたら豚の目の水晶体が凄く綺麗な形をしていると。それをガラス板の上に載せて500枚くらいかなー、写真を撮らされました。
小林
先生が手掛けられた建築に、「EXPO,85科学博サントリー館」がありますが不思議な形ですね。
左高
そうでしょう。この形は、スペインでサクラダファミリアを造ったあのアントニオ・ガウディと同じ原理の設計手法を使って形態を見つけ出しています。自然の形にこだわって、麻紐に均等に砂袋を付けて垂らすと、形が出来てくるでしょう。それを逆さにしたものが、サクラダファミリアの形なんですね。
小林
初めて知りました。
左高
オットー先生もこの手法を使っていまして、私もこの部分を正統に受け継いだんです。私は麻紐に代わって、金属製のチェーンを使いました。チェーンを全部垂らすとカテナリーラインとなります。それを連続させると曲面体が出てきて、逆転させた形がサントリー館の形なんです。建築法については、コンピューターの3次元座標を使って形を空間化することにしました。
小林
85年当時は設計にコンピューターを使うことは当たり前のことだったんですか?
左高
いいえ。ですから、サントリー館はコンピューター解析で曲面形態を得た本当に初期の建築物です。科学技術の進歩があって建設が可能だったという事です。
小林
帰国して日本を見てどう思われましたか?
左高
日本に帰ってきたのは丁度1975年くらいだったんですが、街中掘り起こされて、環境的には光化学スモッグもあり、無茶苦茶な状態でした。その中で、オットー先生に教えてもらった「社会学的見地から物事を見直せ」ということが思い起こされました。日本が抱えている問題を、どういう風にしていかなきゃいけないかということを考えるようになりました。都市を生き物に例えると糖尿病みたいになっちゃって、だらしのない肥満した身体を持て余しているかの印象です。
小林
どのような状態が都市として美しいと思われますか?
左高
やっぱり、文明と文化と自然が良くバランスした状態でしょうね。具体的にいうと、モバイルや科学技術が発達していること。都市の中ではバレーやコンサートなどが出来る劇場や図書館、日なたぼっこが出来る公園があること。そして、10分、15分も走れば森へ行けること。この3つの要素が揃うことが重要なのだと思います。
小林
そこに住む人にも影響があると?
左高
もちろんそうです。人の理性、知性、感性、もっと言うと肉体と精神とそれをつなぐ神経のバランスも取れてくるのではないでしょうか。よく言われる、武道家の心技体と同じことなんです。

運命を感じた雑誌

小林
左高さんはどんな雑誌を読んでこられたのですか? やはり建築関連でしょうか。
左高
学生時代に欠かさず読んでいたのが、『カラム』という、八幡製鉄所が発行していた建築と土木の専門雑誌です。卒業してずいぶん経ってから気付いて驚いたのですが、なんとこの雑誌に、後々出会うことになるオットー先生がよく寄稿していたんです。なにかしら、記事に感化されたところがあるんでしょうね。
小林
まさに運命的な出会いですね。赤線を引いて、よく読み込まれていますね。カラムとは建築用語ですか?
左高
「構造」という意味です。
小林
学生の頃漫画は読まれなかったんですか? 
左高
漫画はちょっと苦手なんです。
小林
部活はやられていたんですか?
左高
高校時代写真部でしたよ。でも真面目な部長じゃなかった。暗室で焼き芋したりして。煙がモクモク外に漏れ出してきて大目玉(笑)。
小林
写真雑誌はお読みになりましたか?
左高
もうなくなってしまったけれど、『アサヒグラフ』とか読みましたよ。
小林
ご自分が初めて記事になったのは?
左高
雑誌ではなく新聞なのですが、23歳の時慰霊碑の仕事の中で載りました。
小林
何を慰霊する碑ですか?
左高
飛騨川のバスの転落事故です。100名を超す方が犠牲になりました。高さ12メートル、幅16メートルほどある塔が、北斗七星の方角を向いている斜めのデザインにしたところ、こんな高いの冗談じゃない、交通の妨げになると岐阜県の知事まで巻き込む大問題になったんです。結局は、高さを半分にすれば許してやるということになりました。
小林
大きさに制限があるんですね。
左高
国定公園だから、建築物だと高さ12メートルとか16メートルのものは現存しているんですよ。ただオブジェになるとまた話が違う。でも法律にも網がかぶせられない聖域があって。10メートル以上の建物を建てちゃいけないという建築基準の土地にも「これはアートです! 」と主張すれば通ることもあるんですね(笑)。
小林
縛りがないんですか(笑)!
左高
もちろんアートになってなきゃいけない。でも芸術は爆発という人もいるからね、その判断が難しい(笑)。
小林
今は、どういう雑誌をお読みになっていますか?
左高
定期購読していて毎月必ず読むのは、致知出版社から出ている『月刊到知』です。
小林
初めて聞きました。どんな雑誌なんですか?
左高
ジャンルでいうと人間学です。毎月有名無名問わずに、いろいろな人を取り上げるので新しい発見がたくさんあります