宮崎駿との出会い
- 小林
- 映画の制作についてお話を伺いたいのですが、どの監督でどんな映画を作りたいというのはありましたか?
- 鈴木
- それは宮さん(宮崎駿) でというのはありましたよ。仲良くなっちゃったもんだから。
- 小林
- 知り合ってどの位でそういうお話に?
- 鈴木
- 78年に出会って本格的に作り始めたのは83年です。
- 雑誌ネット
- よく男女の出会いでは会った瞬間ビビッときたなんていいますけれど、お二人の場合はどういう出会い方だったんでしょう?

- 鈴木
- これから先関わっていくという予感はありました。最初会ったときに赤い糸じゃなく火花が散ったんです。喧嘩です。だって最初取材へ行ったとき僕は言われたんです。「あなたが作っているような雑誌に、僕は発言したくない、汚れるから」って。当時彼は「ルパン3世 カリオストロの城」を作っていたんだけど、頭に来たから腰掛けを持ってきて隣に座ったんですよ。そしたら「帰って下さい」って。それでも、彼が帰るまで隣にずっといたんですよ。それを3日続けて、ついに口を利いてくれたのですが、それは丁度絵コンテを書いている時で、彼は照れ屋だから「こういう時になんて言うんですかね? 」って聞いてきたんですよ。で、大げさに言うと、その日以来今日に至るまで毎日会っています。
- 雑誌ネット
- 飽きないですか?
- 鈴木
- 飽きないから一緒にやっていって大丈夫だと思えました。その時はこんなに才能あるとは知らなかったんですよ・・・・・・。
- 小林
- アハハハハ。
- 鈴木
- 本当に相性がいいだけだったんですよ。後で聞いてみると、僕に対してなんて胡散臭いヤツが来たのだろうと思ったという。お互いそんな感じなんです。そして、「風の谷のナウシカ」を作ることになり、昼映画を作って、夜は雑誌を作るという二重生活が始まりました。結果は大成功だったんですが、でも1本作ると飽きるんですよねえ。僕も宮さんも2本目を作る気がしなくなっちゃったんです。
- 小林
- それでも作らざるをえなくなった事情、私は知っていますよ。高畑さんがドキュメンタリー映画を作って借金を作ってしまって、その返済のためですよね。
- 鈴木
- そうそう高畑さんお金全部使っちゃうんだから。それが「天空の城ラピュタ」誕生の秘密。
- 小林
- だいたいいつもモラトリアムから端を発してますね。
- 鈴木
- そう、僕受身なんです。だからこういう風にしたいというビジョンなんて持ったことないです。
- 小林
- こういう作品を作るというのは宮崎さんがお決めになると?
- 鈴木
- 宮さんは日頃からあれを作りたい、これを作りたいと一杯いう人なんですよ。それを選んでいるのは僕なんです。「千と千尋の神隠し」の時も、彼は本当は別のある作品をやりたがっていたのですが、僕はあまり好きじゃなくて、「それあんまり良くないんじゃない? 」と言って止めちゃったんです。
- 小林
- やはり取捨選択されているんですね。でも毎日毎日ずっと一緒にいらっしゃるので、どういうものをやりたいのかは、なんとなく伝わってくるとは思いますが。
- 鈴木
- やりたいことは1つなんです。それがどういう姿かたちをとるかっていうことなんです。
- 小林
- やりたいことってどういうことですか?
- 鈴木
- 時代によって違うんじゃないでしょうか?
- 小林
- それは例えば、ジブリ作品に良く見られるキャッチコピーに反映されていたりするんでしょうか? 例えば、「もののけ姫」では「生きろ」というコピーでしたが、時代時代で表現したいことを端的に表しているように感じました。
- 鈴木
- そうですね。そういうことでしょうね。「歌は世につれ、世は歌につれ」という言葉がありますが、作品だって同じだと思います。時代性がないといけない。その時代時代の中で関心を持たざるを得ないこと。それは1つです。で、それをどういう姿かたちで世の中に出していくのか、それはもしかしたら現代劇かもしれない、チャンバラかもしれない、それによって随分変わっちゃうわけです。
- 小林
- 鈴木さんご自身も絵を描かれるんですか?
- 鈴木
- いえ絵は描きません。イタズラ書き程度です。
- 小林
- 特徴的な文字ですよね。実は宮崎さんと字が似ていらっしゃいませんか?
- 鈴木
- 宮崎は高畑の字を真似たんです。尊敬していたから。結果僕たちの字は似ているんです。僕は元からああいう字を書いているんで。字に関しては、宮さんがいつも「鈴木さん書いてよ」というんで、書いたりしています。
- 小林
- ロゴも鈴木さんが描かれた文字が使われているとか?
- 鈴木
- ロゴは僕がほとんど作っています。
- 小林
- 手描きですか?
- 鈴木
- 手ですね。「天空の城ラピュタ」はあるデザイナーにゴジラみたいにしてやってよと言ったんです。で、ああいう字が出来たんです。「魔女の宅急便」は、洋画ですよね、女性映画の雰囲気を出したかったから、明朝体で斜体をかけるやつなんです。「となりのトトロ」と「火垂るの墓」は僕は写植でいきたいと思ったんだけど、文芸作品としては普通明朝体でしょ。トトロは、ゴチックあるいは丸文字が普通でしょ。これを逆転させたんです。「となりのトトロ」は明朝体で、「火垂るの墓」はゴチックです。
- 小林
- それは直感で?
- 鈴木
- そうです。「紅の豚」は明朝体にしましたし。「ハウルの動く城」は、宮さんが城のデザインを描いてきて「これ城に見えるかな」と聞いてきてロゴを描いて欲しいというんです。言われたら5分で描かないとうるさいので、ハウルのロゴは私が描いたんです。
- 小林
- 手描きは柔らかい感じがしますね。

- 鈴木
- でも、それが受け入れられる時とそうじゃない時がありますね。最近は手描きが多くなってきましたね。そうなると僕は逆に手描きを使いたくなくなってきちゃう。流行らせたのはだれだとよく言われています(笑)。
- 小林
- 「崖の上のポニョ」は?
- 鈴木
- 今回は宮さんが自分で描いています。「ゲド戦記」は僕が書いてね、作るときに揉めていたから今度の作品だけは鈴木さんに描かせないと言って本人が描いたんですよね。
- 小林
- いま私はミュージカルを作る仕事をしているのですが、やはり原点にジブリ作品があるんですね。小3のころにラピュタを初めて見て、それ以降全部見ていますが、ミュージカルに通じる壮大なロマンと娯楽感覚と音楽と色に惹かれます。そこから私のミュージカル人生が始まっている気がします。音楽の選び方一つにしても毎回そうくるんですか? という意外性を楽しんでいます。今回のポニョも鈴木さんが選ばれたんですか?
- 鈴木
- 子供の歌が欲しいから作ってと久石さんに頼んだら、頼んだ瞬間にあの「♪ポニョポニョ」って歌い出したから、それでいいですよって。
- 小林
- ああいうチーム編成になったのは理由があるんですか?
- 鈴木
- まずは、誰かに譜面を歌ってもらわないと感じがつかめないから、誰でもいいから連れてきてといったら来たのが、大橋のぞみちゃんだったんです。歌を聞いたら良かったからこの子でいいよな、って。歌を聴いていた宮さんが、お父さんが欲しいなという訳です。僕はそれを聞いて正直めんどくさいなと思ったんですよ。だってお父さん役まだ決まっていないし、ちゃんとした人を連れてきてやってみて上手くいかなかったらまずいでしょ。そしたら宮さんが藤巻さんでいいんじゃないかっていうもので、そのままやっちゃったというのが実状です。
- 小林
- 音楽にも気を配られているんですか?
- 鈴木
- 気を配るというか、必要なことはやらなきゃいけないという感覚です。音楽は無くてもいいけどやっぱり寂しいでしょ。久石さんが頑張ってくれるからやろうかなって思っています。
- 小林
- 作曲家は違う方でと思われたことはありますか?
- 鈴木
- 最初の頃はありますけれど、久石さんで決まったらいいですよね。毎回考えなくていいんだから楽(笑)。
- 小林
- 実写を作りたいと思われたことはありますか?
- 鈴木
- 観ていたいですよね。好きだから。作るより観るほうが面白いじゃないですか。実写は観てるのが好きだから本当は作りたくないですよ。それにノウハウがないしね。素人がやるべきじゃないと思っているんです。アニメーションは今までの経緯があって、アニメーターだとか現場の人を掌握しているからです。今も主要なスタッフに関しては全員知っていますしね。どういうスタッフが集まればどういう作品が出来るかもだいたい解ります。
- 小林
- スタッフが違うと作品も変わりますか?
- 鈴木
- ええ全然変わります。
- 小林
- 作品をこういう風にしたい。と目的があって、あえてそのスタッフを登用することがある?
- 鈴木
- 山のようにありますよ。特別なシーンのためじゃないですが、例えば、ハウルの動く城では上手なアニメーターが欲しいという事で、世間的に有名ではないけれど、大塚伸治っていうのがどうしても欲しくて1年掛りで説得しました。この人が来たんで、あのおばあちゃんが階段を登るシーンは、最初宮崎駿が描いていた絵コンテを書き直したんです。あれは本当は、おばあちゃんがおばあちゃんに手を差し伸べるという感動のシーンだったんです。でもこれはお話でしょ。でもこれを動きだけで見せるシーンに変更になったんです。何しろあのシーンは二人のおばあちゃんが階段を登るだけ。だけどみんなそれを観ていて面白いでしょ。あれはプロの技だからなんです。
- 小林
- 確実に鈴木さんのお仕事は実際のフィルムに投影されるわけですよね。
- 鈴木
- そうとも言い切れないですよ。大塚さんがいなければ宮崎が描いた絵でやったでしょうし、人を探すのは僕かもしれないけれど、どういう人を採用して活用するかは彼の仕事でもあるんです。僕はなんの関係もありませんよ(笑)。

