- 花田
- 『月刊むし』をやってらして一番のご苦労はどういうことですか? あまりないでしょうか?
- 藤田
- 苦労はないですね。楽しくて楽しくて、ただ夢中でやってきて気が付いたら30年たっていたと。
- 花田
- ちゃんとペイしているんですか?
- 藤田
- それが一番の問題で(笑)。この間も大阪で蝶々の雑誌が潰れました。うちもたまたまクワガタの雑誌があったので息をついていますが、創刊した4人も虫の雑誌が作れればいいやという感じで、これで食っていこうなんて全然思っていなかったと思います。
- 花田
- でも食っていけなかったら困るでしょ?
- 藤田
- 私が先輩からこの雑誌を受けついだ時には、赤字もいいところで、一年くらいは給料なし、土日にウェイターのバイトをして生活費に充てていました。とにかく、これで食っていこうとは考えていなかったですね。虫がブームになって、活き虫の雑誌がたくさん出てきた時は、虫が好きでというよりはお金が好きで始めたという人が多かったように思います。そういう雑誌は虫への愛情がないから続かなかったのかなと思いますね。うちのスタッフはそれぞれにいろいろな分野の虫に興味を持っていて、標本や虫の本をたくさん持っていて、家でも編集部と同じことをやってるんですよ。商売でやるよりは、朝から晩まで虫のことしか考えてない人間の方が強いですよね。逆にこういう仕事は、そういう人間じゃないと務まらないでしょうね。

- 花田
- 藤田さんは毎号の特集内容はこれを取り上げると売れるだろうとか、そういった視点では決めない?
- 藤田
- クワガタをやれば売れるなというのがあった位ですね。
- 花田
- でもそれは意図的にというよりか、たまたまという話でしたよね。
- 藤田
- 最初「オオクワガタ特集」というのを組んだんですけど、それは遊び気分でやってみたんです。その前に真剣に「伊豆諸島の昆虫特集」とか出したのは全然売れずに、遊び気分で作ったのが売れちゃった(笑)。
- 花田
- じゃあ、一番のヒット企画はクワガタですか?
- 藤田
- そうですね。
- 花田
- 季節によってどの虫を取り上げるなど決まりはあるんですか?
- 藤田
- 春になれば蝶々であったり、冬はオオクワガタかな。でもこの季節はこれを必ずというものは『月刊むし』に関しては特にないですね、『BE・KUWA』の方が季節に沿ったテーマというのはありますね。
- 花田
- 毎号どのようにテーマを選ばれるんですか?
- 藤田
- 編集会議で、年に特集の三分の一程度を決めますが、それ以外は寄稿、投稿が多いので、それでスタンダードに作っていくという形です。
- 花田
- 投稿ですか。たしかに『月刊むし』を開くと、「千葉県でアミメキシタバを採集」とか「ワニメクラチビゴミムシの採集記録」とか、読者の投稿がたくさん載ってますね。毎号投稿数はどの位あるんですか?
- 藤田
- かなりありますね。こちらをご覧頂いたら解りやすいかと思いますが、これは2004年に出ました『月刊むし』の400号です。養老先生に巻頭を書いて頂いたのですが、私はこれに日本の昆虫雑誌の100年史を書いたんです。戦前は農業の観点から虫を紹介するような雑誌もありました。さっき言ったクワガタ雑誌が一杯出たのが1986年ごろですね。これが虫の商業誌の109年の歴史です。それ以外にも全国に同好会誌が250くらいあるかと思います。
- 花田
- そんなにあるんですか。
- 藤田
- 一都道府県にいくつもあって、これがその一覧表です。それぞれ皆さんが県別に一生懸命虫を調べたりする組織がありまして、特に面白いネタが出た際には中央誌に来たりするわけです。日本は、雑誌や本を出すのは飛びぬけて世界一です。日本人は非常に特異な存在です。
カール・リンネ(スウェーデンの植物学者)という人が「近代生物分類法」というのを作ったのが250年前なんですが、日本人はその頃は刀を差してチャンバラをやっていた訳です。日本は西欧諸国に遅れること150年、109年前からスタートした訳ですが、今は本でも図鑑でも世界のトップなんです。
チャンバラがいきなり明治維新で近代化して、チャンバラをやっていた人間が作った武器で第二次世界大戦までいっちゃった。その歴史は虫の歴史と重なります。150年のハンディキャップを埋めて尚かつ超えちゃった訳でしょ。いつも日本人はとんでもない人種だなと思います。戦争だってあの期間で世界の大国と戦おうしたんですから。政治家さえしっかりしてくれたら、日本人はすごいことが出来る国民なのに、プライドをなくしちゃっているようで、歯がゆいです。
日本人は我々のやってる虫の雑誌のような小さな分野を見ていても、他の分野を見ていてもとんでもないポテンシャルを持っていますよ。これは、9月にうちから出た、弊社の先々代社長小岩屋敏が書いた、『世界のゼフィルス』という図鑑です。ゼフィルスという非常に人気の高い蝶々で、世界に184種類います。全種類の写真を収録しているんですが、それだけでなく、卵が産まれている状態と、その卵の拡大と、幼虫とさなぎの段階すべてを収録しています。これを今年60歳になる小岩屋さんがミャンマーや中国など世界中を駆け回って採りに行ったわけです。
これのクワガタ版を今、私が書いているところなんです。これは第5弾なんですが、こんな本を矢継ぎ早に出す国は他にないでしょう。 - 花田
- 知的好奇心の行きついた果てですね。

- 藤田
- バブルって非難されがちですけれども、外国から優れた文献や資料をたくさん持ってこられたから、悪いことばかりではなかったと思います。あとどんなに日本がダメだと言われても、持っている国力はすごいと思います。いまこの『BE・KUWA』は中国語版が台湾で出ていて、今度韓国語版も発売されることになりました。
- 花田
- 翻訳作業など向こうでしているわけですか?
- 藤田
- ええ、2冊を1冊にして向こうで翻訳しています。
- 花田
- 海賊版じゃなくてちゃんと契約してやっているわけですね。
- 藤田
- ええ、うちから権利を買ってやっています。
- 花田
- 『世界のゼフィルス』ですけど、この46000円の図鑑がどの位売れるんですか?
- 藤田
- 1000部くらいでしょうか。
- 花田
- そんなに売れるものなんですね。図書館とかですか?
- 藤田
- いえ個人が多いですね。
- 花田
- 蝶がお好きな鳩山邦夫さんはきっと持っておられますよね。
- 藤田
- 図鑑の出版披露パーティの前日が大臣の就任に当たってしまい、ご本人が来られないので、代わりに秘書の方が二人くらい来てました。
- 花田
- 本人残念だったでしょうね(笑)。