- 花田
- 雑誌を作っていくには、編集作業の前に情報収集という作業がありますね。矢澤さんたちの場合、どのようにして情報収集をしているのですか?
- 矢澤
- そうですね、読者からいろんな情報が寄せられますけど、多いところでは新聞、雑誌、テレビ、ラジオです。「新聞などの報道が本当なのかどうか」というのが私自身のいつもの立ち位置です。寺院関係の記事があるとまず、「本当なのか? 」と調べてみる。
- 花田
- 先ほどはヒット企画を聞きましたけど、逆に「これは失敗したな」ということは?
- 矢澤
- 実際に裁判になったのは『月刊住職』の時だったんですけど、京都の長尾さんという有名なカンカン坊主といわれて、空き缶を拾ってそれをリサイクルするという運動を始めたエコロジーの先駆けのようなお坊さんなんですが。
- 花田
- カンカン坊主?
- 矢澤
- ええ、常寂光寺の方です。その人に書いてもらった記事なんですけど、長尾さんに了承してもらって私が加筆したんですね。そうしたら、その加筆した部分が問題になってしまった。実は、ある病院建設をめぐって大きな事件があった。京都の大物のフィクサーと言われる人間が、医局の人間を脅かして指を詰めさせたというんです。そして、結局その人は辞めてしまうんです。私は詰めた指を見ていないんですけど、見たと言う何人もの人間にあたりましたし、ジャーナリストもいたので聞くと、確かに指がないと。「自分は麻酔医だから、麻酔をかけてやった」と言っていたという情報を得て、私は間違いないと思って指を詰めさせたのは間違いないと書いてしまったんです。それが問題になりました。
- 花田
- その人は指を詰めていなかった?

- 矢澤
- いや、私はそのフィクサーが指を詰めさせたと書いたんですが、フィクサーは「医者は自分で詰めたんで、私が関わったわけではない」と。「私はそのようなことを人にさせる人間ではない。名誉毀損だ」と訴えられたんです。一審では勝ったんですけど、二審では負けましたね。取材不足ですね。
- 花田
- 相手にはあたっていなかったんですか?
- 矢澤
- あたれるような状況ではありませんでした。
- 花田
- そこがちょっと弱かったですね。
- 矢澤
- えぇ。それが事件になったことで、裁判にも立ちましたし、マスコミにも書かれました。けれども、こういう経験があるので、後は「告訴するぞ」と言われても、自分なりの対応ができますね。『月刊住職』を始めた頃の社長からも「自然の流れに任せなさい」と言われておりましたし。告訴や抗議や訂正文の要求はいまでも結構あります。それは結局取材が出来ていないからなんですよ。取材がしっかりできていないのに書いてしまってるんですね。実は、お坊さんたちというのは、先ほど言った「自分が理解されていないんじゃないか」という問題と関係あるのかもしれませんが、あまり自分たちのことを言いたがらないんです。
- 花田
- そうなんですか。
- 矢澤
- 沈黙の人が多いです。社会に対して言葉は持っていないんです。お説教は一方的にするんですが、社会に対して何かアピールしようという態度よりは、「仕方がない、世の中はこういうものだ」という諦観の方が多いのではないかと思います。お坊さんはもともと社会の俗事がら離れた人たちなので。私みたいなのは、違反中の違反なんです(笑)。
○編集長の失敗談